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たまつきばのいちぐう

球突場の一隅

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《球突場の一隅(たまつきばのいちぐう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,111 字 · 29 頁

青空文庫

」

林と呼ばれた男はやはり黙ったまま笑顔をしてこちらを見ていた。

「さあいらっしゃいよ。」と上さんはまた松井を促した。

「今日は止しましょう。」と暫くして松井は云った。

「懐で物案じというんですね……。」と云いかけたが、彼女は急に調子を変えた。「まあご悠り遊んでいらっしゃい。」

そして彼女は奥に入りながら、球をついていた村上に声をかけた。

「村上さん沢山負かしておやりなさい。この節は鼻っぱしばかり強くていけませんよ。」

こう云われておたかは眼で笑ってみせた。

夜遅くなるといつもおたか一人で、余り突けもしないが客の対手をしたりゲームを取ったりした。いつもは主人が客の対手をするんだが、もう大分頭の禿げかかった彼は、夜は眼がよく利かないと云って早くから奥にはいるのであった。で客の多い時は上さんが出て来て一方のゲームを取ったが、大抵はおたか一人であった。でよく夜更けまでおたかを相手に遊んでいく客があった。村上と松井と林とは殊に夜更かしの連中であった。村上と松井とは連れであった。林はいつも一人でやって来た。彼等が林という名前を知ったのも、「林さん如何です。」というおたかの言葉からであった。