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うみがめ

異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁

青空文庫

」

思い切って戸をがらりと明けてはいると、なかには誰もいないのです。なんだか薄気味悪くもなったのですが、ここまで来た以上、つまらないことをいって唯このままに引っ返すのは、西田さんの手前、あまり臆病者のようにもみえて極まりが悪い。どうなるものかと度胸を据えて、僕は手早く浴衣をぬいで、勇気を振るって風呂場にはいりましたが、かの女の影も形もみえないのです。

「おれはよほど頭が悪くなったな。」

風呂に心持よく浸りながら僕は自分の頭の悪くなったことを感じたのです。震災以来、どうも頭の調子が狂っている。神経も衰弱している。それがために一種の幻覚を視たのである。その幻覚が若い女の形をみせたのは、西田さんの娘ふたりのことが頭に刻まれてあるからである。姉は十九で、妹は十六であるという。その若いふたりの生死不明ということが自分の神経を強く刺戟したので、今ここでこんな幻覚を見たに相違ない。すすり泣きのように聞えたのはやはり流れの音であろう。昔から幽霊をみたという伝説も嘘ではない。自分も今ここでいわゆる幽霊をみせられたのである。――こんなことを考えながら、僕はゆっくりと風呂にひたって、きょう一日の汗とほこりを洗い流して、ひどくさっぱりした気分になって、再び浴衣を着て入口の戸を内から明けようとすると、足の爪さきに何かさわるものがある