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うみがめ

異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁

青空文庫

」

ここらに年じゅう住んでいる者では、海苔巻のすしでもなかなか珍らしい。重兵衛は喜んでその贈り物を受取った。

「おい、太吉。お客人がこんないいものを下すったぞ。早く来てお礼をいえ。」

いつもならば、にこにこして飛び出してくる太吉が、今夜はなぜか振り向いても見なかった。彼は眼にみえない怖ろしい手に掴まれたように、固くなったままで竦んでいた。さっきからの一件もあり、かつは客人の手前もあり、重兵衛はどうしても叱言をいわないわけにはいかなかった。

「やい、何をぐずぐずしているんだ。早く来い。こっちへ出て来い。」

「あい。」と、太吉はかすかに答えた。

「あいじゃあねえ。早く来い。」と、父は呶鳴った。「お客人に失礼だぞ。早く来い。来ねえか。」

気の短い父はあり合う生木の枝を取って、わが子の背にたたきつけた。

「あ、あぶない。怪我でもするといけない。」と、旅人はあわてて遮った。

「なに、言うことをきかない時には、いつでも引っぱたくんです。さあ、野郎、来い。」

もうこうなっては仕方がない。太吉は穴から出る蛇のように、小さい体をいよいよ小さくして、父のうしろへそっと這い寄って来た。