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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁
」
自分の背中にこすり付いているわが子をつきのけて、重兵衛はかたわらの棚から忙がしそうに徳利をとり出した。それから焚火に枝を加えて、壜の酒を徳利に移した。父にふり放された太吉は猿曳きに捨てられた小猿のようにうろうろしていたが、煙りのあいだから旅人の顔を見ると、またたちまち顫えあがって、むしろの上に俯伏したままで再び顔をあげなかった。
「今晩は……。重兵衛どん、いるかね。」
外から声をかけた者がある。重兵衛とおなじ年頃の猟師で、大きい黒い犬をひいていた。
「弥七どんか。はいるがいいよ。」と、重兵衛は燗の支度をしながら答えた。
「誰か客人がいるようだね。」と、弥七は肩にした鉄砲をおろして、小屋へひと足踏み込もうとすると、黒い犬は何を見たのか俄かに唸りはじめた。
「なんだ、なんだ。ここはおなじみの重兵衛どんの家だぞ。ははははは。」
弥七は笑いながら叱ったが、犬はなかなか鎮まりそうにもなかった。四足の爪を土に食い入るように踏ん張って、耳を立て眼を瞋らせて、しきりにすさまじい唸り声をあげていた。
「黒め。なにを吠えるんだ。叱っ、叱っ。」と、重兵衛も内から叱った。
弥七は焚火の前に寄って来て、旅人に挨拶した。