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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁
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足音を忍ばせてだんだんに近寄ると、池の岸にひとつの黒い影の動いているのが、水明かりと雪明かりと星明かりとでおぼろげに窺われた。その影はうずくまるように俯向いて、凍った雪を掻いているらしい。獣ではない、確かに人である。私服を着ているが、わたしも警察官であるから、進み寄って声をかけた。
「おい。そこで何をしているのだ。」
相手はなんの返事もなしに、摺りぬけて立去ろうとするらしいので、わたしは追いかけて、その行く手に立ちふさがった。野童も外套の袖をはねのけて、すわといえば私の加勢をするべく身構えしていると、相手はむやみに逃げるのも不利益だと覚ったらしく、無言でそこに立ちどまった。
「おい、黙っていては判らない。君は土地の者かね。」
「はい。」
「ここで何をしていたのだ。」
「はい。」
その声と様子とで、野童は早くも気がついたらしい。ひとあし摺り寄って呼びかけた。
「君は……。冬坡君じゃないか。」
そう言われて、わたしも気がついた。彼は町の煙草屋の息子で、雅号を冬坡という青年であるらしかった。冬坡もわれわれの俳句仲間であるが、今夜の句会には欠席してこんなところに来ていたのである。