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ちちぶきこう

知々夫紀行

幸田 露伴

線上閱讀幸田 露伴《知々夫紀行(ちちぶきこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,784 字 · 31 頁

青空文庫

横瀬、大宮、上影森、下影森、浦山、上名栗、下名栗の七村に跨れるといえる、まことにさもあるべし。この山のとなえをいつの頃よりか武甲と書きならわししより、終に国の名の武蔵の文字と通わせて、日本武尊東夷どもを平げたまいて後甲冑の類をこの山に埋めたまいしかは、国を武蔵と呼び山を武甲というなどと説くものあるに至れり。説のいつわりなるべきは誰しも知るところなれど、山の頂に日本武尊をいつきまつりありなんどするまま、なおあるいは然らんとおもう人もなきにあらず。されど文字も古くは武光とのみ書きて武甲とは書かねば、強言そのよりどころを失うというべし。さてまたひそかにおもうに、武光のとなえも甚だ故なきに似て、地理の書などにもその説を欠けり。けだし疑うらくはここらを領せし人の名などより、たけ光の庄、たけ光の山などとの称の起りたるならんか。いと古くより秩父の郡に拠りて栄えたる丹の党には、その初めてここに来りし丹治比武信、また初めてここを領せし武経などの如く、武の字を名につけたるもの多ければ、あるいは武光というものもありしかと思わる。ただし地の名より人の名の起れる例は多けれど、人の名より地の名の起れる例はいと少ければ、武光は人の名ならんとの考えもいと力なしなど思いつつ、桑圃の中の一すじ路を行くに、露もまだ乾ぬ桑の葉の上吹く朝風いと