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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

線上閱讀本庄 陸男《石狩川(いしかりがわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 頁

青空文庫

麻かみしもに威儀をただした神山外記は、あたりに眼をくばりながらこの座敷にやって来るところであった。一種のもやもやとした重い空気のようなものが立てこめていた。これは殿の帰着を機会にして呼吸づまるほど濃くなっていた。何としてでも――どういう手段によってでも、この場合に於いて発散させて了わなければならぬものであった。とにもかくにも、一藩の重役である神山外記にこの気配が見えぬわけは無かった。彼は吉原兵太郎の肩をたたいてまアまアと後戻りさせた。

「おそろいでござるな」

「はア――」

「ながく待たれたか」

彼は誰にともなくそう云って、床の間わきの座について云った。

「遠路の旅で、ご辛労のことでございましたろう、それにしても」

彼はまたせかせかと立った。思いだしたように障子の外に出て呼んだ。

「これ!」

しわがれた、使い古しのような彼の声がひろがっただけだ。返事は無かった。

彼は提げていた刀をすとッと腰におとし、そこの座敷廊下に立ちはだかるようにして手を拍った。座敷にたまっていた人々の声も静かになった。かしわ手の鋭い音は、屋根の下一ぱいにたッたッと突きぬけて行った。

女のほそい声が、それに答えて近づいて来た。