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しんぴこんちゅうかん

神秘昆虫館

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神秘昆虫館(しんぴこんちゅうかん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,803 字 · 213 頁

青空文庫

何しろこの私の兄にあたる、昆虫館主がやられるのだからなあ……。そうは云っても一方から云えば、私にはこの旅が面白いのさ。久しぶりで兄弟と逢えるのだからなあ。……お前達にとっても楽しかろうよ、変わった建物が見られるのだからな。昆虫館という建物さ。……がその代わり間違うと、それこそ本当に腥い、死山血河の大修羅場が、演ぜられることになるだろうよ。いやそうなったらお前達が力だ、思い切って腕を揮ってくれ」

「かしこまりましてございます」こう云ったのは松代である。道行を着てその裾から、甲斐絹の甲掛を見せている。武家の娘の旅姿で、歩き方なども上品にしている。「ご前のおためでございましたら、どのようなことでもいたします」充分謹んだ言葉つきである。

「ご前という言葉はよくないなあ。お爺さんとでも呼ぶがいい。人目を避けての旅だからな」

「はいはいそれではお爺さん」

「それがよろしい、さて娘や」

こんな具合に話して行く。

こうして一同関宿まで行き、それから森林を分け上り、昆虫館まで行くのであろうが、この頃小一郎と君江とは、例の秩父の中腹を、上へ上へと辿っていた。

「例によりましてあなたの位置は、お気の毒様でございますなあ」