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しんろのまき

神鷺之巻

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《神鷺之巻(しんろのまき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,672 字 · 54 頁

青空文庫

」――雪の中に産育する、そんな鷺があるかどうかは知らない。爺さんの話のまま――猟夫がこの爺さんである事は言うまでもなかろうと思う。さて猟夫が、雪の降頻る中を、朝の間に森へ行くと、幹と根と一面の白い上に、既に縦横に靴で踏込んだあとがあった。――畜生、こんなに疾くから旦那が来ている。博士の、静粛な白銀の林の中なる白鷺の貴婦人の臨月の観察に、ズトン! は大禁物であるから、睨まれては事こわしだ。一旦破寺――西明寺はその一頃は無住であった――その庫裡に引取って、炉に焚火をして、弁当を使ったあとで、出直して、降積った雪の森に襲い入ると、段々に奥深く、やがて向うに青い水が顕われた、土地で、大沼というのである。

今はよく晴れて、沼を囲んだ、樹の袖、樹の裾が、大なる紺青の姿見を抱いて、化粧するようにも見え、立囲った幾千の白い上が、瑠璃の皎殿を繞り、碧橋を渡って、風に舞うようにも視められた。

この時、煩悩も、菩提もない。ちょうど汀の銀の蘆を、一むら肩でさらりと分けて、雪に紛う鷺が一羽、人を払う言伝がありそうに、すらりと立って歩む出端を、ああ、ああ、ああ、こんな日に限って、ふと仰がるる、那須嶽連山の嶺に、たちまち一朶の黒雲の湧いたのも気にしないで、折敷にカンと打った。