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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁
そこで将来をおそれ、次代の将軍家の座をいまのうちに固めておこうとして打った手ではないのか。いや、義詮の一条項を、これへ持ち出したのでもそれは読めるというものだ」
兄のそんな偏愛と師直の奸策とが結ばれて、自分のこれまでに尽してきた半生の功も、副将軍の地位も、一朝にいま、剥ぎ取られたのかと思うと、直義は煮えるような怒気と淋しさとにくるまれた。蒼白な自分の顔が自分でわかるほどだった。
やがて邸外には万雷のような歓声がわいていた。それも直義を口惜しさに歯がみさせた。目的を達した師直方は、ほこらしげなどよめきをくり返しつつ引揚げて行ったのだった。合戦にはならずにすんだが、不吉な朝の太陽に思われた。そのうえ、このさい嫌なことがまた一つあった。
僧の妙吉がいつのまにか逐電していたのである。ために妙吉だけは、この朝、師直方へ引渡されずに終っていた。のみならず以後も長くこの怪僧はついに姿を現すことがなかった。本来は、直義に深くとり入って、こんどの事件を醸し出した元兇であったはずの者だった。奇怪というほかはない。後に説をなす者は、彼も北畠親房のあやつる五列の一人ではなかったかとも言ったりしたが、しかし後の南朝方にも、ついぞこの怪僧らしい人物は見えてない。