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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

しかもいまや彼は出先の孤軍でしかない。

「義詮は都にいる」

残してきた最愛の嫡男だけがひたすら彼の心配であった。――年を越えつつ尊氏は備前から京都へ急いで引っ返した。――だが途中で、もうその義詮は父に出会った。直義方の桃井直常に追われて京都を逃げ出して来たのである。

ある大事なものが、人間社会からいつか失くなっていた。それは曲りなりにもまだ護持しあっていた道徳というものだが、一たんこれを無視し出して、無視する方が、世の勝利者だとなって来れば、いたるところでこの約束の破棄は始まッてくる。悪が悪でなくなり勝利者だけがいくらでもあとから自己を正当づけ得る。

こんなでたらめな状態が自分の理想した幕府の劈頭にやって来たかとおもうと、尊氏は慚愧と怒りに燃やされた。わけて京都を追われて逃げ出して来た義詮のみじめな姿は、我慢がならないものだった。

「懲らさねばならん。懲らしに懲らす、それだけが、秩序を回す道でしかない」

彼はただちに義詮をつれ、師直を先鋒に、京都へ入った。

直義に応じて、北国から洛中へ攻めこんだ桃井直常の七千人は、もう師直一族の第館なども焼き払い、北朝の御所をさえおびやかしていた。