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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

暗天黒地

昔といっても、人の半生にも足らないほどな歳月のうちだが」

義詮もそばにいた。

だが義詮はだまって酒杯をふくんでいた。二十二歳である。自身、自分を花と誇っている年頃である。

花見にしてはしめやかな宴であった。どちら側の臣もこの席には一人もいない。所は洛外の西方寺で花の廂から花の山が望まれる。――世良親王の河端ノ宮の遺跡に植え出したさくらがいつか花時には大堰川の水も小紋にして見せるほどな名所となって来た始まりであるという。

三月二十一日で、この前日には、三条河原で武家一般の犬追物が賑やかに興行され、二日つづきの盛事であった。

尊氏と直義との和解を、ひろく世間に知らせる意味と、大きな亀裂を表面化した武士どもの心を溶け合せようという目的もこれにはあった。

順序としていえば、前月の二月二十六日、尊氏は降人として、終日のぬかるみと小糠雨にまみれた姿で京都につき、夜、上杉朝定のやしきに入った。「――あたかも流人のようであった」とは、当時の状を目撃した路傍の人の声だった。

直義はそうでない。

彼はいまや兄の上にいる。執事の師直以下、高家一族を葬り去った快を満喫している勝者だった。