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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

その、いわれをただせば、これは尊氏の発意で始まった民政ではない。ひとえに、覚一の願望だった。彼が身に舐めてきた世路の盲人の生き難い相から常に考えさせられていたものを、将軍家へ献策して、その結果、ひとつの盲官組織と、また盲人たちを総括する職屋敷の土地とを与えられたことに由来する。

それまでの盲人といっては、社会の視る目もむごく、

「めくらが一人死ねば、富者が二人できる」

などと平気でいわれていたほどだった。戦乱が生んだ餓鬼道の巷では、癈人、穀つぶし、足手まとい以外の何者とも視られなかったといってよい。

職屋敷ではまず従来から乞食扱いにされていた盲の琵琶弾きを収容して、これに官の印可と保護を与えた。また、すさんだ大道芸に平曲のよさを習得させた。さらに筋のいい者には座の職階を上げて、座頭、勾当の名誉もさずけた。

盲人は、ほこりを取りもどした。技をみがいて、人をたのしませ、自分も高い盲官の位置をえて、人中でも敬われる身になりたいとする希望にもえた。が、中には天性、平家の一曲も覚えられない者もある。それらの者には鍼、灸治、按摩、売卜の道など教えて、ともあれ職屋敷の制度下にいれば、何かの生業と保護を得られ、そして穀つぶしなどと蔑まれるいわれもなくなった。