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しゅうふうふき
秋風不帰
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《秋風不帰(しゅうふうふき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 頁
八
暫く合掌唱名した彼は蓑を脱いで、襷をかけ、汗止を巻き、袴の紐を緊直し、刀の目釘に湿りをくれてから、再び蓑と笠をひき纒って堂を出た。
雨はまだ降りしきっている。
本堂の裏を右へ、鐘楼の脇から山門を表へぬけて出ると茶店がある、……近づいて行くと、広い土間の床几に吉郎兵衛のいるのが見えた。
――待伏せの人数は?
と見廻したが、後は松の疎林、手前は門前の通りで、隣りは町屋に続いている。恐らく茶店の奥か裏にひそんでいるのであろう。
吉郎兵衛が夏雄を認めて手をあげた。
八
「遅かったな。使いの下郎は?」
「人眼につくから裏門のところに待たせてある……」
茶店の軒先に立ったまま、
「銀之丞はどうした」
「来ている、まあ入らないか」
「先ず会おう」
吉郎兵衛は眼で奥の方を示した。
土間の裏手で、手を洗う水の音が聞え、やがて銀之丞が現われた。……彼は夏雄をみつけると訝しげな、しかし明かに取って付けたような何気ない態度で、
「誰だ、……そこへ来たのは」
と、云いながら近寄って来た。
夏雄は蓑の緒を掴んでいた左手を放し、笠をのけながら、片足で床几の一つをぱっと蹴上げた。床几はがらがら音高く、銀之丞の退路を塞ぐように横へ倒れた。