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かがくのげんかい
科学の限界
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《科学の限界(かがくのげんかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,657 字 · 18 頁
ところで、極端な場合として、一〇〇人中九九人は治るが、一人は死ぬという薬は、どう扱うべきか、という問題が出て来る。九九パーセント効くのであるから、その点では名薬である。しかし死んだ一人の人にとっては、一パーセント死ぬのではなく、まるまる死ぬのである。その人にとっては、この薬は非常な悪薬である。それならば、販売を禁止すべきかというと、そうとも言えないところに問題がある。
ペニシリンのショック死が、その良い例である。死んだ人には非常に気の毒であり、また一人の人間の生命は、全地球よりも尊い、というのも、そのとおりである。しかしそれならば、ペニシリンの販売を禁止すべきかというと、それは間違っている。ペニシリンは非常な名薬で、この薬の出現以来、肺炎の死亡率が激減している。肺炎で死ぬ人が日本に何人あったか知らないが、かりに十万人あったとして、死亡率が半減すれば、五万人は助かることになる。ペニシリンのショックを恐れて、販売を禁止し、肺炎による死亡率がペニシリン出現以前の値に戻ったとすると、一人の人の死を防ぐために、五万人の人間を殺すことになる。ペニシリンを使わなかったために、肺炎で死ぬ人は、ショック死ほどはっきり目立たないので、見逃され易いが、計算からは、こういうことになる。