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しんのしゅっぱつ
秦の出発
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《秦の出発(しんのしゅっぱつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,532 字 · 29 頁
煙草と茶とが出た。――面会中それだけのもてなしだった。
洪正敏が出て来ると、男は秦啓源を改めて披露した。洪はうなずいて、秦を見た。秦は鄭重に挨拶した。洪は男を室から去らして、小卓ごしに秦と向い合って席についた。
「あなたのことは知っていた。私からも逢いたく思っていた。」と洪は笑顔で言った。
七十歳に近い洪は、まだ矍鑠たるもので、肩には肉の厚みも見え、髪は短く刈り、顔色は浅黒く、太い眉と細めの眼とが特徴である。そしてその顔にも態度にも、善良そうないたわりの気味が現われてるのを、秦は意外にかつ不思議に感じた。なにか予期に反したのである。
この予期外れが、対話をも予期外れのものとなした。秦は腹蔵なく語り出したのである。
彼は上海の内臓を探るつもりで金属の商取引にも手を出したが、多くの豪壮な建築に地下室が殆んど無いことから、他のことを発見した。泥土地帯の上に構築されたこの都市は、地下三尺のところはもう水である。豪雨があれば、目貫の街路にも出水三尺に及ぶ。四百万から五百万の人口がその水上に住んでいるのだ。これらの人々が作り出す汚水はどう処置されているか。浄化所は今のところ三ヶ所あって、通風、撹拌、消毒、沈澱などの工作の後、河中に放出されているが、その浄化所へ汚水を導くポンプには、莫大な電力が消費される。