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おに
聴雨・蛍 織田作之助短篇集
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《聴雨・蛍 織田作之助短篇集(おに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,483 字 · 41 頁
いや、それどころか、坂田は花田八段の第一手七六歩を受けた第一着手に、再び端の歩を一四歩と突いたのである。さきには右の端を九四歩と突き、こんどは左の端を一四歩と突く。九四歩は最初に蛸を食った度胸である。一四歩はその蛸の毒を知りつつ敢て再び食った度胸である。無論、後者の方が多くの自信を要する。なんという底ぬけの自信かと、私は驚いた。
けれども、その一四歩がさきの九四歩同様再び坂田の敗因となってみると、もう坂田の自信も宿命的な灰色にうらぶれてしまった。人びとは「こんど指す時は真中の歩を突くだろう」と嘲笑的な蔭口をきいた。坂田の棋力は初段ぐらいだろうなどと乱暴な悪口も囁かれた。けれども、相手の花田八段はさすがにそんな悪口をたしなめて、自身勝ちながら坂田の棋力を高く評価した。また、一四歩突きについても、木村八段のように「その手を見た途端に自分の気持が落ち着いた」などと、暗に勝つ自信をほのめかした感想は言わず、「坂田さんの一四歩は仕掛けさせて勝つ。こうした将棋の根本を狙った氏の独創的作戦であったのです」といたわりの言葉をもってかばっている。花田八段の人物がしのばれるのである。