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ちゅうどく

聴雨・螢 織田作之助短篇集

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《聴雨・螢 織田作之助短篇集(ちゅうどく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,162 字 · 37 頁

青空文庫

その日の米にも困る暮しであった。庄之助の稽古は、その貧乏故に一層きびしかった。

よその子が皆遊んでいるのに、自分は何故遊べないのだろうかと、寿子は溜息つきながら、いつもヴァイオリンを肩にあてるのだった。

ある夏の夜のことであった。

何度くりかえしても、寿子は巧く弾けなかった。曲はバッハのフーガ。

「莫迦! そんなことで日本一のヴァイオリン弾きになれるか」

怒って庄之助はそういい捨てて、蚊帳の中へはいってしまった。

寿子はベソをかきながら、父のあとについて蚊帳の中へはいろうとすると、

「お前は蚊帳の外で、出来るまで弾くんだ」

という父の声が来た。

寿子は眠い眼をこすりながら、弾き出した。庄之助は蚊帳の中で聴いていた。

「もう一度。出来たというまで弾け」

数珠の玉をたぐり寄せるようなバッハのフーガ。それを、寿子はそれこそ数珠の玉をたぐるように、何度も何度も弾き、弾かねばならなかった。父はいつまでたっても

「出来た」

と言ってくれなかった。

「喧しいね」

と、母親の礼子は吐きだすように言って、寝がえりを打った。

礼子は寿子の生みの親ではない。礼子は寿子の母親の妹であったが、寿子の母親が寿子の三つの年になくなって間もなく、後妻にはいったのである。