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わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《若き日の摂津守(わかきひのせっつのかみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 頁

青空文庫

光辰は振向いて永井民部を見、その山やまのうちひときわ高く、頂上に雪のある峰を指さした。

「あの雪のある山」と光辰は云った、「おれはあの山を、まえに見たことがあるか」

「初のお国入りですから、ごらんになるのは今日が初めてでございます」

「そうか」光辰は安心したように微笑し、口のまわりを拭いてから、威厳をつくろって訊いた、「あれはなんという山だ」

「越見岳と申します」と民部が答えた、「昔はあの頂上に見張り所があって、不法に国越えをする者や、密猟者などを取締ったのだと、伝えられております」

「民部はよく知っているな」

「私はお国許で生れ、十歳までこちらで育ったのです、――お口のまわりをどうぞ」

光辰は袖で口のまわりを拭いた。白綸子の羽折の袖口のところは、もうひどく濡れていた。

猟が終ると、獲物を集めて、光辰に披露した。その日の宰領をしたのは物頭の和泉五郎兵衛という者で、獲物は鴨六百羽、鴫その他が八十羽ということであった。それから、獲物を料理った膳が配られて、小酒宴が催された。まず賜盃から始まって、次に光辰が膳部に向うと、望月吉太夫が上段際まで席を進め、大沼の鴨について語った。