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くのうのねんかん

苦悩の年鑑

太宰 治

線上閱讀太宰 治《苦悩の年鑑(くのうのねんかん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,798 字 · 16 頁

青空文庫

もみつぶしてしまうつもりであったろうか。天王山は諸所方々に移転した。何だってまた天王山を持ち出したのだろう。関ヶ原だってよさそうなものだ。天王山を間違えたのかどうだか、天目山などと言う将軍も出て来た。天目山なら話にならない。実にそれは不可解な譬えであった。或る参謀将校は、この度のわが作戦は、敵の意表の外に出ず、と語った。それがそのまま新聞に出た。参謀も新聞社も、ユウモアのつもりではなかったようだ。大まじめであった。意表の外に出たなら、ころげ落ちるより他はあるまい。あまりの飛躍である。

指導者は全部、無学であった。常識のレベルにさえ達していなかった。

×

しかし彼等は脅迫した。天皇の名を騙って脅迫した。私は天皇を好きである。大好きである。しかし、一夜ひそかにその天皇を、おうらみ申した事さえあった。

×

日本は無条件降伏をした。私はただ、恥ずかしかった。ものも言えないくらいに恥ずかしかった。

×

天皇の悪口を言うものが激増して来た。しかし、そうなって見ると私は、これまでどんなに深く天皇を愛して来たのかを知った。