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くさまくら

草枕

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《草枕(くさまくら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 84,485 字 · 170 頁

青空文庫

すぽりと浸かると、乳のあたりまで這入る。湯はどこから湧いて出るか知らぬが、常でも槽の縁を奇麗に越している。春の石は乾くひまなく濡れて、あたたかに、踏む足の、心は穏やかに嬉しい。降る雨は、夜の目を掠めて、ひそかに春を潤おすほどのしめやかさであるが、軒のしずくは、ようやく繁く、ぽたり、ぽたりと耳に聞える。立て籠められた湯気は、床から天井を隈なく埋めて、隙間さえあれば、節穴の細きを厭わず洩れ出でんとする景色である。

秋の霧は冷やかに、たなびく靄は長閑に、夕餉炊く、人の煙は青く立って、大いなる空に、わがはかなき姿を托す。様々の憐れはあるが、春の夜の温泉の曇りばかりは、浴するものの肌を、柔らかにつつんで、古き世の男かと、われを疑わしむる。眼に写るものの見えぬほど、濃くまつわりはせぬが、薄絹を一重破れば、何の苦もなく、下界の人と、己れを見出すように、浅きものではない。一重破り、二重破り、幾重を破り尽すともこの煙りから出す事はならぬ顔に、四方よりわれ一人を、温かき虹の中に埋め去る。酒に酔うと云う言葉はあるが、煙りに酔うと云う語句を耳にした事がない。あるとすれば、霧には無論使えぬ、霞には少し強過ぎる。