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しょうたく

荷風随筆集(下)〔全2冊〕

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(下)〔全2冊〕(しょうたく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,633 字 · 74 頁

青空文庫

のぞき込む顔が接近して互の頬がすれ合うようになる。あたりは高座で噺家がしゃべる通り、ぐるぐるぐるぐる廻っていて、本所だか、深川だか、処は更に分らぬが、わたくしはとかくする中、何かにつまずきどしんと横倒れに転び、やっとの事娘に抱き起された。見ればおあつらい通りに下駄の鼻緒が切れている。道端に竹と材木が林の如く立っているのに心付き、その陰に立寄ると、ここは雪も吹込まず風も来ず、雪あかりに照された道路も遮られて見えない別天地である。いつも継母に叱られると言って、帰りをいそぐ娘もほっと息をついて、雪にぬらされた銀杏返の鬢を撫でたり、袂をしぼったりしている。わたくしはいよいよ前後の思慮なく、唯酔の廻って来るのを知るばかりである。二人の間に忽ち人情本の場面がそのまま演じ出されるに至ったのも、怪しむには当らない。

あくる日、町の角々に雪達磨ができ、掃寄せられた雪が山をなしたが、間もなく、その雪だるまも、その山も、次第に解けて次第に小さく、遂に跡かたもなく、道はすっかり乾いて、もとのように砂ほこりが川風に立迷うようになった。正月は早くも去って、初午の二月になり、師匠むらくの持席は、常磐亭から小石川指ヶ谷町の寄席にかわった。