輕讀日語

輕鬆讀懂日語經典作品

ja-reading.com

輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。

きくちよしょう

菊千代抄

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《菊千代抄(きくちよしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,178 字 · 72 頁

青空文庫

母の顔はよく思いだせないが、むくんだような頬にこぼれ落ちた涙や、詫びるような祈るようなその声は、まざまざと記憶からよみがえってきた。自分の手を握った痛いほどの力も、そのまま自分の手に残っているようだ。

――お可哀そうな、菊さん。

母の言葉の意味が初めてわかる。自分が上屋敷へ訪ねていっても、どこかよそよそしくて、自分の姿から眼をそらすようにした。……母は自分のおとこ姿を見るに耐えなかったのだ、家の古い伝承には従わなければならない、しかし初めて産んだ娘が男としてそだてられるのを、母は平気では見ていられなかった。いつも哀れがり、可哀そうだと思っていたのだ。

――お母さま。

菊千代は眼をつぶって、心のなかでそう呼びかけた。

自分はなぜ母の言葉を思いだしたか。十余年もまえの、しかもそのときはわけもわからず、ただきみが悪いとしか感じなかったことを、なぜとつぜんに思いだしたか。いま菊千代には理解することができる。それは竹次夫妻の劬り愛しあう姿を見たからなのだ、そのように深く良人に愛されているおいくの姿を見たからである。自分はかつてそのように愛されたことがない、主従の関係はあるけれども、女としては一度も、誰からも愛されなかった。