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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《菊屋敷(きくやしき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 頁
あの頃の情熱が残っているなら、これからでも充分にそれを生かしてゆけるに違いない。
「……それに」と志保は自分にたしかめるような調子で呟やいた、「あのじぶんのような浮ついた高慢はもう無くなっているから」
浮ついた高慢という言葉には一つの回想があった。小松の結婚する少しまえのことだったが、或日、志保の居間へ文を入れた者があった。披いてみると一首の恋歌がしたためてある。自分が美しからぬ娘で、人に愛されるようなことはないと固く信じていた志保は、それを門人たちの嘲弄であると思い、屈辱感のためにはげしく身が震えた。そしてその恋歌が、どこかでたしかに読んだ記憶があるように思えたので、歌集をとりだしてきて丹念にしらべた、するとそれが実朝の金槐集のなかにあるものだということがわかった。そこで志保は父のいない折をみて、門人たちの集っているところへゆき、その歌をよみあげて、――どなたかこの歌をご存じでございますか、と訊ねた。門人たちはなにごとかという顔つきで志保を見まもったが、知っていると云う者はなかった。――このなかにお一人、たしかにこの歌をご存じの方がある筈です、志保は珍らしく針を含んだこわねでそう云った。