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おちてゆくせかい
落ちてゆく世界
久坂 葉子
線上閱讀久坂 葉子《落ちてゆく世界(おちてゆくせかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,725 字 · 40 頁
昔長く家にいた女中が、午後来てくれて、私はすっかり用事をまかせて、又自分の部屋に戻ると、ふたたび、父についての思い出をたぐりはじめました。父と私は、新緑の奈良や、紅葉の嵯峨野をよく散策しました。古寺を尋ね、その静かなふんいきの中で色をたのしんだり、形をながめたりしたのです。
「母様とね、まだ結婚して間なし、こうやって、奈良や京都をあそんだ事があるんだよ。母様は、つまらなくて仕方がないという風でね、父様が一生懸命、建築の話をしているのに、居睡りはじめたこともある。かなしかったよ」
そう云って、父はさみしく笑ったこともありました。でも、母としても父には不満があったわけなのでしょう。東京で比較的自由な娘時代を送った母にとって、父の趣味は理解出来ず、ダンスや音楽や、そういう方面にうとい父は、ばんからな、やぼな男だったでしょう。公使館のパーティの話をよく私はきかされました。馬に乗って軽井沢をかけまわったこと、大勢の男友達とスキーに行ったり、ヨットにのったりした青年時代。父と母とは、とけあう事が出来なかったのは、当然だったでしょう。そして父は母にないものを私に求めました。