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おちむしゃにっき
落武者日記
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《落武者日記(おちむしゃにっき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,460 字 · 23 頁
やがて娘は夜具の隅を押えてから、そっと次の間へ去って行った。
明けがたと思われるころだった。
さすがに連日の疲れが出て、ぐっすり眠っていた祐八郎は、異様な人の叫び声にはっと眼覚めた。声は家の裏手でしていた。暴々しい男の喚きに交って、この家の娘の必死に押し止める声がする。
「嘘です、家には父が寝ているだけです」
「黙れ、この干し物はなんだ、百姓の家にこのような品があるか」
「それは、……ひ、拾った品です」
「面倒だ、踏込め!」
「あれ、父は重病で寝ております、あれっ」
だだっと戸を押し破る音に続いて、人の踏み込んで来る気配がした。
このあいだに床をぬけ出していた祐八郎は、太刀をひっ掴んで、縁側の雨戸を蹴放しざま、前庭へだっととび下りた。
「ああ、逃げた」
「庭へ廻れ」
そういう声と、娘の悲鳴とが、鋭く彼の耳を打った。
外は深い朝霧だった。祐八郎は痺れている片足を引摺りながら、懸命に粟畑の中へとび込んで行った。
しかし遅かった。追い詰めて来た一人が、やっと叫びさま、体ごと、うしろから跳びかかる、躱そうとしたが、浮いていた腰が砕けてのめる、その勢いをそのまま、三転して脱出しようとしたが、続いて走せつけた一人が、獣のように咆えながら跳びかかった。