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かいろこう

薤露行

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《薤露行(かいろこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,925 字 · 40 頁

青空文庫

「遅き人のいずこに繋がれたる」とアーサーはさまでに心を悩ませる気色もなくいう。

高き室の正面に、石にて築く段は二級、半ばは厚き毛氈にて蔽う。段の上なる、大なる椅子に豊かに倚るがアーサーである。

「繋ぐ日も、繋ぐ月もなきに」とギニヴィアは答うるが如く答えざるが如くもてなす。王を二尺左に離れて、床几の上に、纎き指を組み合せて、膝より下は長き裳にかくれて履のありかさえ定かならず。

よそよそしくは答えたれ、心はその人の名を聞きてさえ躍るを。話しの種の思う坪に生えたるを、寒き息にて吹き枯らすは口惜し。ギニヴィアはまた口を開く。

「後れて行くものは後れて帰る掟か」といい添えて片頬に笑う。女の笑うときは危うい。

「後れたるは掟ならぬ恋の掟なるべし」とアーサーも穏かに笑う。アーサーの笑にも特別の意味がある。

恋という字の耳に響くとき、ギニヴィアの胸は、錐に刺されし痛を受けて、すわやと躍り上る。耳の裏には颯と音がして熱き血を注す。アーサーは知らぬ顔である。

「あの袖の主こそ美しからん。……」

「あの袖とは? 袖の主とは? 美しからんとは?」とギニヴィアの呼吸ははずんでいる。