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かいろこう

薤露行

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《薤露行(かいろこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,925 字 · 40 頁

青空文庫

黒きものは聞かざる真似して行く。幽かに聞えたるは轡の音か。怪しきは差して急げる様もなきに容易くは追い付かれず。漸くの事間一丁ほどに逼りたる時、黒きものは夜の中に織り込まれたる如く、ふっと消える。合点行かぬわれは益追う。シャロットの入口に渡したる石橋に、蹄も砕けよと乗り懸けしと思えば、馬は何物にか躓きて前足を折る。騎るわれは鬣をさかに扱いて前にのめる。戞と打つは石の上と心得しに、われより先に斃れたる人の鎧の袖なり」

「あぶない!」と老人は眼の前の事の如くに叫ぶ。

「あぶなきはわが上ならず。われより先に倒れたるランスロットの事なり……」

「倒れたるはランスロットか」と妹は魂消ゆるほどの声に、椅子の端を握る。椅子の足は折れたるにあらず。

「橋の袂の柳の裏に、人住むとしも見えぬ庵室あるを、試みに敲けば、世を逃れたる隠士の居なり。幸いと冷たき人を担ぎ入るる。兜を脱げば眼さえ氷りて……」

「薬を掘り、草を煮るは隠士の常なり。ランスロットを蘇してか」と父は話し半ばに我句を投げ入るる。

「よみ返しはしたれ。よみにある人と択ぶ所はあらず。われに帰りたるランスロットはまことのわれに帰りたるにあらず。