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くすりゆびのまがり

薬指の曲り

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《薬指の曲り(くすりゆびのまがり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,603 字 · 6 頁

青空文庫

其の右の薬指は、すこしまがっておりました。指の恰好から薬を盛る工合が亡くなった父そっくりであります。私は其の指から、何時となしに其の医師が父のような気になりました。

「それでは、お父さんが薬を持って来てくれた」

と思いだしましたが、亡くなっている者が来たと云う不思議も、それに対する驚きも起らないで、非常に父が懐しかったのであります。

其のうちに医師は薬を盛ってしまい、それを包にして母の枕頭の盆の上へ置いて、

「私は、もう帰るから、お前が飲ましてやるが好い」

と云って、医師はすうと起って、襖の外へ往ってしまいました。私は其の薬のことが気になっておりますから、すぐ母の枕頭へ往って、其の包を開けて、

「お母さん、おあがりなさい」

と云いますと、母は何も云わずに口をすこしあけましたから、急いでそれを口へ入れて、茶碗の水を執って注いでやりますと、母は眼をやって、

「どうした」

と云いました。私は、

「お父さんの薬を飲みました」

と云いましたが、其の夜明けから母の熱がさめて、翌日の夕方にはもうお粥をたべるようになり、そして、二三日のうちに癒ってしまいました。で、私が父が来た話をすると、皆が不思議がりました。