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やぶおとし
藪落し
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《藪落し(やぶおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,118 字 · 14 頁
――どうかよろしくお願いいたします。
勘三郎はおとなしく答えて頭を下げた。お豊は悲しげな良人の横顔を見守っていた。
勘三郎がお豊を愛していた以上に、お豊はもっともっと良人を愛していたのである、こうした愛情ほどふしぎなものはない、お豊が初めて勘三郎を山へ送りだしたときは、早くやまを当て、与石の家を盛返して欲しいと考えていたのであるが、それから日を経るにしたがって彼女の思うことは、ただ良人がいとしいというだけになっていった。
良人がどんなに自分の苦労を気に病んでいるか、妻に貧乏をさせ、困窮のなかに母を死なせ、病弱の子を産み土地と家を失い、叔父の家に飢の救いを求めるまでになった良人の、窮迫すればするほど強く、絶えず自分に働きかけてくる愛情と謝罪の気持、それを思うときお豊の心は締めつけられるように苦しく、何もかも投出して悔いのないいとしさを感ずるのであった。――水晶砿山を捜し当てるか当てぬか、そんなことはもうお豊には問題ではない、自分や子供がどんな苦労をしようとかまいはしないただ良人の望みを果させてやりたいのだ、良人が望みを達して喜ぶ顔さえ見たら、そのとき自分がどうなっていようとそれで自分は満足できるのだ。