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らんがくことはじめ
蘭学事始
菊池 寛
線上閱讀菊池 寛《蘭学事始(らんがくことはじめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,575 字 · 31 頁
が、彼は良沢にかまいすぎる自分の心持を恥じた。彼は、良沢ただ一人しかいないのを幸いに、自分の素志を述べてみた。
「西氏! 今日は、ちと御辺に折り入ってお尋ねしようと思うことがござるのじゃ、それは余の儀ではござらぬ。総体、オランダの文字と申すものは、われら異国の者にも、読めるものでござろうか。それとも、いかほど刻苦いたしても読めないものでござろうか。有様にお答え下されい。われら存ずる子細もござるほどに」
玄白の問いには、真摯な気が満ちていた。西は玄白の熱心を嘉するように、二、三度頷いた。が、彼の与えた答は、否定的だった。彼は、西海の人に特有な快活な調子で答えた。
「さればさ、それは、三、四の方々からも尋ねられたことでござる。なれど、われら答え申すには、ただ御無用になされと申すほかはござらぬ。いかほど辛労なされても、所詮及ばぬことでござる。有様を申せば、われら通辞の者にても、オランダの文字を心得おるものは、われら一両人のほかは、とんとござらぬ。余の者は、音ばかりを仮名で書き留め、口ずからそらんじ申して、折々の御用を弁じておるのでござる。彼の国の言葉を一々に理解いたそうなどは、われら異国人には、所詮及ばぬことでござる。