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ぐびじんそう

虞美人草

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《虞美人草(ぐびじんそう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 198,559 字 · 401 頁

青空文庫

「壮んなものだ」と宗近君は大いに御意に入った。

「夢窓国師とどっちがいい」

「夢窓国師よりこっちの方がえらいようだ」

船頭は至極冷淡である。松を抱く巌の、落ちんとして、落ちざるを、苦にせぬように、櫂を動かし来り、棹を操り去る。通る瀬はさまざまに廻る。廻るごとに新たなる山は当面に躍り出す。石山、松山、雑木山と数うる遑を行客に許さざる疾き流れは、船を駆ってまた奔湍に躍り込む。

大きな丸い岩である。苔を畳む煩わしさを避けて、紫の裸身に、撃ちつけて散る水沫を、春寒く腰から浴びて、緑り崩るる真中に、舟こそ来れと待つ。舟は矢も楯も物かは。一図にこの大岩を目懸けて突きかかる。渦捲いて去る水の、岩に裂かれたる向うは見えず。削られて坂と落つる川底の深さは幾段か、乗る人のこなたよりは不可思議の波の行末である。岩に突き当って砕けるか、捲き込まれて、見えぬ彼方にどっと落ちて行くか、――舟はただまともに進む。

「当るぜ」と宗近君が腰を浮かした時、紫の大岩は、はやくも船頭の黒い頭を圧して突っ立った。船頭は「うん」と舳に気合を入れた。舟は砕けるほどの勢いに、波を呑む岩の太腹に潜り込む。