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むし
虫
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《虫(むし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 頁
壁のはげ落ちた土蔵。倒れかかったあばら家。くずれた土塀。その荒涼たる化物屋敷の門内から、仮令フォードの中古にもしろ、見たところ立派やかな自動車が、それが夜の場合には、怪獣の目玉の様な、二つの頭光を、ギラギラと光らせて、毎日毎日、どことも知れず辷り出して行くのである。婆やを初め、附近の住民達は、もうその頃は噂の拡まっていた、この奇人の、世にも突飛な行動に、目を見はらないではいられなかった。
一月ばかりの間、彼は、運転を覚えたばかりの嬉しさに、用もないのに自動車を乗り廻している、という体を装いつつ、無闇と彼の所謂自動車放浪を試みた。市内は勿論、道路の悪くない限り、近郊のあらゆる方面に遠乗りをした。ある時は、自動車を、池内光太郎の勤先の会社の玄関へ横づけにして、驚く池内を誘って宮城前の広場から、上野公園を一順して見せたこともあった。池内は「君に似合わしからぬ芸当だね。だが、フォードの古物とは気が利かないな」などと云いながら、でも、少なからず驚いている様子だった。若し彼が、現に彼の腰かけていた、クッションの下に、妙な空隙が拵えてあること、又遠からぬ将来、そこへ何物かの死体が隠されるであろうことを知ったなら、どんなに青ざめ、震え上ったことであろうと思うと、運転しながら、柾木は背中を丸くし、顔を胸に埋めて、湧上って