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たこのごときもの

蛸の如きもの

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《蛸の如きもの(たこのごときもの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 頁

青空文庫

それはやはり、蛸坊主の秘密会合に似ている。

蛸坊主の会合だから、さすがに腕もあり足もある。だが、その腕や足のゼスチュアーも、ここではあまり役に立たない。給仕の女たちは、紺絣にモンペ姿の品行方正な少女だ。蛸坊主どもが如何にも色気たっぷりに、腕や足をさし伸べようと、その吸盤は、深遠な論理の声音が宙に消え失せると同様、宙に迷って何の手応えも得られない。

ひっそりした空気がかもし出され、酔いと夢とがはぐくまれるのだ。一隅のボックスで、中腰になって盛んに饒舌り立ててた青年が、どうしたことか、相手の青年から、平手でぴしりと頬を殴られた。すると彼もまた、相手の頬に平手打ちをくわせ、卓上のコップを取って、ぱしっと床に投げつけ、微塵に砕いた。その時、隣りのボックスから一人の壮年が立ち上り、振り上げてる彼の腕を捉えて言う。

「やめろ、やめろ。やるなら、表に出てやれ。」

やれ、という言葉が、酒をやれという調子に響く。

青年は見向きもせず、はははと笑い、ボックスの奥に引っ込んで、相手とこそこそ話しだし、壮年も自分のボックスに引っ込んで、杯を挙げてるらしい。

彼等は互に知り合いなのだろうか、それとも未知の間なのだろうか、さっぱり見当がつかない。