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こうじん

行人

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《行人(こうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 224,801 字 · 452 頁

青空文庫

けれども自分には何の相図もせずに、すぐその眼を頁の上に落した。

自分はこの三階の宵の間に虫の音らしい涼しさを聴いた例はあるが、昼のうちにやかましい蝉の声はついぞ自分の耳に届いた事がない。自分のたった一人で坐っている病室はその時明かな太陽の光を受けながら、真夜中よりもなお静かであった。自分はこの死んだような静かさのために、かえって神経を焦らつかせて、「あの女」の室から三沢の出るのを待ちかねた。

やがて三沢はのっそりと出て来た。室の敷居を跨ぐ時、微笑しながら「御邪魔さま。大勉強だね」と看護婦に挨拶する言葉だけが自分の耳に入った。

彼は上草履の音をわざとらしく高く鳴らして、自分の室に入るや否や、「やっと済んだ」と云った。自分は「どうだった」と聞いた。

「やっと済んだ。これでもう出ても好い」

三沢は同じ言葉を繰返すだけで、その他には何にも云わなかった。自分もそれ以上は聞き得なかった。ともかくも退院の手続を早くする方が便利だと思って、そこらに散らばっているものを片づけ始めた。三沢も固よりじっとしてはいなかった。

三十一

二人は俥を雇って病院を出た。