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こうじん
行人
線上閱讀夏目 漱石《行人(こうじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 224,801 字 · 452 頁
と嫂が聞いたが、兄は全く知らなかった。方角さえ分らないと答えた。これが兄の特色であった。彼は事件の断面を驚くばかり鮮かに覚えている代りに、場所の名や年月を全く忘れてしまう癖があった。それで彼は平気でいた。
「どこだか解らなくっちゃつまらないわね」と嫂がまた云った。兄と嫂とはこんなところでよく喰い違った。兄の機嫌の悪くない時はそれでも済むが、少しの具合で事が面倒になる例も稀ではなかった。こういう消息に通じた母は、「どこでも構わないが、それだけじゃないはずだったのにね。後を御話しよ」と云った。兄は「御母さんにも直にもつまらない事ですよ」と断って、「二郎そこの二階に泊ったとき面白いと思ったのはね」と自分に話し掛けた。自分は固より兄の話を一人で聞くべき責任を引受けた。
「どうしました」
「夜になって一寝入して眼が醒めると、明かるい月が出て、その月が青い柳を照していた。それを寝ながら見ているとね、下の方で、急にやっという掛声が聞こえた。あたりは案外静まり返っているので、その掛声がことさら強く聞こえたんだろう、おれはすぐ起きて欄干の傍まで出て下を覗いた。すると向に見える柳の下で、真裸な男が三人代る代る大な沢庵石の持ち上げ競をしていた。