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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《街はふるさと(まちはふるさと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 頁

青空文庫

彼女は放二の言葉をウワの空できいていたが、

「まだ勤めから戻りませんよ」

つめたい返事であった。ちょうど勤め人の帰宅する時刻であった。

「もうじきお帰りでしょうか」

と、きくと、敏子の母は益々冷淡に、

「毎晩おそいですよ」

「幾時ごろですか」

「人の寝しずまるころですよ」

そうおそくまで遊んでくるのでは、夜は会えない。

「ではお勤め先でお目にかかりたいと思いますが、お勤め先はどこでしょうか」

敏子の母はとうとう怒りだした。

「女の子のあとを追いまわしてどうするの。いやらしい。お帰り。相手にしていられやしない。忙しいのに」

ブツクサ呟きながら、さッさと振向いて去ってしまった。

放二はそれ以上どうすることもできなかった。もう一度、克子を訪ねるほかに手段がない。社線、省線、社線と、又、一時間半ほど廻らなければならない。

克子はまだ海から戻らなかった。

克子の父母はフビンがって、彼を室内へ招じてくれた。

「こちらのお嬢さんも京都の女学校の御出身ですか」

「どうして?」

「今まで廻ったお友だちが、そうですから」

「克子は疎開前のお友だち。たしか、二年まで、ご一しょでしたわね」

しばらく世間話をしているうちに、克子が疲れて、もどってきた。