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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

線上閱讀海野 十三《西湖の屍人(せいこのしじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 頁

青空文庫

(麝香というのは、こんな匂いじゃないかしら)

そんな風なことを思いながら、夢をみているような気持だった。

突然、意識が鮮明になった。朝霧が風に吹きとばされて、あたりが急に明るく晴れてゆくように……。

(こんなものを、頭から被ってたじゃないか)

私は、真黒い布を、顔からとりのけて、上半身を起した。真黒い布と思ったのは、洋服の上衣だった。

(そうだ。怪しい男を掴えたっけが、彼奴の上衣なのだ!)

怪しい香も、その上衣から発散することが判ってきた。それにしても、いい匂いだが、なんという異国情調的な香なんだろう。私の手は無意識に伸びて、その上衣のポケットを、まさぐっていた。

(おお、なんだか、入っているぞ!)

掌に握れるほどの大きさのものだった。出してみた。透かしてみた。そして撫でまわしてみた。何だか壜のようだ。

突如! 近くで私の名を呼ぶ声がする。私はムックリ起上った。

横丁をすりぬけて、飛鳥のように駈出してゆく人影! やッ、彼奴だ! 彼奴が引返してきたのだ!

そのあとからバラバラと追ってきたのは、帆村だった。

「元気をだせ! 走れ、早く!」

と帆村は私の方に投げつけるように叫んで、怪人物の跡を追った。