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『さいゆうき』のゆめ
『西遊記』の夢
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《『西遊記』の夢(『さいゆうき』のゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,947 字 · 18 頁
国民学校五年生の上の子供が、この頃『西遊記』に凝り出したのを見て、何だか恐ろしいような気がしている。というのは、折角買ってもらった少国民向きの上品な『西遊記』にはざっと眼を通しただけで、夢中になっているのは、大人向きの旧い『西遊記』である。
「そんなむつかしい本が分るかい」ときいても「分るさ、面白いよ」と言いながら、頬を真赤に上気させ、ふり向きもしないで読んでいる。
その横顔をみながら、私は静かに少年の日の旧い煤けた家の姿を心に描いてみた。すると仏壇の間のほのかな燈明のゆらぎが眼のあたり蘇って来た。
「その玄奘三蔵というお坊さんは本当にいた人なんだよ。その坊さんの書いた本もお父さまは持ってるよ。印度へお経をとりに行った途中のことが、書いてあるんだが、見せてやろうか」と言うと勿論大変なさわぎである。三人の子供が折りかさなって、国訳『大唐西域記』を覗き込んで、「三蔵法師玄奘奉詔訳」という字に眼を光らせて、息をのんでいる。
ふと山本晋道師の『天竺紀行』についていた阿育石柱刻文の拓本のことを思い出して、臘伐尼林のところを説明しながら二行だけ読んでやる。「四天王の太子を捧げし堵波の側に遠からず、大なる石柱ありて、上には馬の像を作れり。