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さいごうたかもり

西郷隆盛

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《西郷隆盛(さいごうたかもり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,892 字 · 22 頁

青空文庫

が、勿論老紳士は少しもそんな事には気がつかない。青い煙草の煙が、鼻眼鏡を繞って消えてしまうと、その煙の行方を見送るように、静に眼を本間さんから離して、遠い空間へ漂せながら、頭を稍後へ反らせてほとんど独り呟くように、こんな途方もない事を云い出した。

「細かい事実の相違を挙げていては、際限がない。だから一番大きな誤伝を話しましょう。それは西郷隆盛が、城山の戦では死ななかったと云う事です。」

これを聞くと本間さんは、急に笑いがこみ上げて来た。そこでその笑を紛せるために新しいM・C・Cへ火をつけながら、強いて真面目な声を出して、「そうですか」と調子を合せた。もうその先を尋きただすまでもない。あらゆる正確な史料が認めている西郷隆盛の城山戦死を、無造作に誤伝の中へ数えようとする――それだけで、この老人の所謂事実も、略正体が分っている。成程これは気違いでも何でもない。ただ、義経と鉄木真とを同一人にしたり、秀吉を御落胤にしたりする、無邪気な田舎翁の一人だったのである。こう思った本間さんは、可笑しさと腹立たしさと、それから一種の失望とを同時に心の中で感じながら、この上は出来るだけ早く、老人との問答を切り上げようと決心した。