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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
線上閱讀山川 方夫《親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選(きく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 67,486 字 · 144 頁
ただ、せっかく人気ないこの賢明な会話の場をえらんだ二人に、気まずい思いをさせたくはなかったし、ぼく自身、この種の人間のややこしさ、わずらわしさに立ち会ったり、巻きこまれたりするのは大きらいなんだ。僕は、岩かげで手足をちぢめていた。
――私ね、もうあなたに倦きたの。昨夜もあなたいってたわね。ぼくたち、結婚しよう、そして、新しく出発しよう、君もやり直すべきだ、なんて。……よしてよ。もう結構、そんな歯の浮くみたいなこと。……
女の声は、泣いているみたいだったが、それは波を避けながらしゃべるための、必然的な結果にすぎなかったのかもしれない。声は移動していた。そして、岩かげにうつむきにへばりついていたぼくの目に、岩の裂け目にひろがるほんの僅かな海面、その碧緑色のさなかを、波に揺られて上下しながら真赤な海水帽が通り過ぎるのが見えた。ひどく色の白い、鼻がたかく首の細い、美しい女の横顔が、一瞬、あざやかにぼくの目にのこった。
すこし遠くなって、でも女の声はぼくの耳によくとどいた。
――いやよ、私。面倒くさいことはもうたくさん。だれが自分の過去を捨てられたり、昔の自分に戻ったりできるって思うの? そんなことは嘘だわ。