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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
線上閱讀山川 方夫《親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選(きく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 67,486 字 · 144 頁
お祈りと同じだわ。声なんか出しちゃ駄目よ。だって、私、吹き飛ばされちゃうかもしれないもの」
「……わかった。目で話そう」
それが、彼が彼女に逢い、目で言葉をかわしはじめた最初だった。……いつのまにか、彼はたとえそれが夢であり、自分の狂気がつくりあげた幻影であるとしても、彼女といるその時間を失うのが惜しくなりはじめた。彼女が、どこからどうやってこの高層アパートの最上階に来たのか、彼女の正体はなにか、そんなことはどうでもいいと思った。問題は、いまげんに彼女がぼくの目に見えているという事実だ。せっかくやってきたこの可愛らしい、貴重な、すばらしいお客を失いたくない。ただそれだけで彼は夢中だった。
「……ねむいわ。どこか眠るところない?」
やがて、彼女はいった。彼は、そっと両手でかこうようにして彼女を自分の机の上に運び、その抽斗しの一つに、柔らかな絹ハンカチと綿とで彼女のベッドをつくった。
「おやすみ」
未練な自分の気持ちをそこにしまいこむみたいに、彼はそっと抽斗しを押してやった。彼女はベッドの上で大きな欠伸をしながら、机の中にかくれた。
彼は、自分がふたたび彼女を見ることができるとは、つまり明日もこの錯乱がつづいていることは、信じられなかった。