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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

線上閱讀萩原 朔太郎《詩の原理(しのげんり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 頁

青空文庫

故に真に「天分ある詩人」とは、この主観者と客観者、生活者と芸術家とが、一の人格に於て完全に結合され、10に対する10の比例で、平衡を得たものでなければならない。もし一方の者が他に優れば、彼は所謂「詩を作らない詩人」となり、もしくは逆に、芸術的才能のみあって詩的精神の欠乏している霊魂なき「詩を持たない詩人」になる。こうした不幸の例について、吾人は実に多くのものを見聞している。たとえば我が王朝の歌人在原業平は、日本無比な情熱的な恋愛詩人で、かつ藤原氏の専横に鬱憤しつつ、常に燃ゆる反感を抱いていた志士であり、あたかも独逸の詩人ハイネに比すべき人であったが、彼の和歌はそれ程でなく、人麿や西行に比し、二流であることを免かれない。即ち定評されている如く、意あまって言葉足らずで、表現の才能が、主観の六分しか尽していないのである。さらに彼の兄行平に至っては、一層詩人的な情熱家であったにかかわらず、詩人としては殆ど無能で、漸く末流の才能しか持ってなかった。そして彼等の反対のもの、即ち表現の才能が有りあまって、しかも詩的霊魂の欠ける詩人は、引例の煩までもなく、吾人の周囲到るところに発見できる。