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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

線上閱讀萩原 朔太郎《詩の原理(しのげんり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 頁

青空文庫

我々の文明情操には、始めから相対上の主観と客観が無いのであるから、芸術上に於ても、勿論また西洋に於けるような主観主義と客観主義、即ち抒情詩的精神と叙事詩的精神の対立がない。日本で考えられている芸術上の主観主義と客観主義とは、抒情詩と叙事詩の対立でなくして、実に和歌と俳句との対立を意味するのである。

日本の俳句が世界に於ていかに特殊な文学であり、いかにレアリスチックな詩であるかと言うことは、前に他の章で述べた通りであるが、もう一度改めて言っておこう。何よりも著るしいのは、俳句の立脚する精神が、西洋の叙事詩と正反対に立っているということである。叙事詩の精神は「主観に対する反語」であり、否定によっての高翔なのに、俳句はむしろ「没主観への徹入」を精神とし、東洋的虚無感――それが西洋のニヒリズムと、全然反対のものであることに注意せよ。――に浸ろうとする。西洋の叙事詩の精神は、科学の客観主義と共通であり、自然を肯定するのでなく、自然を征服しようとするところの、主観的権力感の現われである。然るに俳句はこれに反し、自然の中に没入し、自然と共に楽しもうとするのであって、科学や叙事詩の立脚する客観主義とは、全然精神が異っている。