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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《赤ひげ診療譚(あかひげしんりょうたん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,416 字 · 53 頁

青空文庫

九

――しばらくだったね、と佐八が云った。

――しばらくでした、とおなかが答えた。

混みあう人のために押されて、二人は奥山のほうへと歩いていった。

九

境内を一と廻りしたうえ、随身門から外へ出ると、佐八は蕎麦屋をみつけて、おなかといっしょにはいり、その二階へあがった。二階には客がいず、おなかは赤児をおろして、乳を含ませた。

――おまえの子だね。

――ええ、太吉っていうんです。

――もう誕生ぐらいか。

――九月めです。

佐八は胸を抉られるように感じた。

「鑿かなんか突込まれて、ぐいぐい抉られるような気持でした」佐八はちょっと眉をしかめた、「――憎らしいとか、くやしいとかいうのではなく、ただもういじらしくって哀れで、……おかしなはなしです、自分の女房が他人の子を産み、眼の前でその子に乳を飲ませているんですから、本当なら思う存分やりこめたうえ、半殺しにでもしてやるところでしょう、それがただもう哀れで、哀れで、もしできることなら、抱き緊めていっしょに泣いてやりたいような気持でした」

登はふところ紙を出して、そっと佐八の額の汗を拭いてやった。

そのときはそれで別れた。