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ついおくのいしたち
追憶の医師達
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《追憶の医師達(ついおくのいしたち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,362 字 · 5 頁
五、六歳の頃好きな赤飯を喰い過ぎて腹をこわした結果「脳膜衝」という病気になって一時は生命を気遣われたが、この岡村先生のおかげで治ったそうである。たぶん今云う疫痢であったろうと思われる。死ぬか、馬鹿になるか、と思われたそうであるが、幸いに死なずにすんでその代り少し馬鹿になったために、力に合わぬ物理学などに志して生涯恥をかくようになったのかもしれない。とにかく命を助かったのはこの岡村先生のおかげである。
岡村先生が亡くなって後は小松という医者の厄介になった。老先生と若先生と二人で患家を引受けていたが、老先生の方はでっぷりした上品な白髪のお茶人で、父の茶の湯の友達であった。たしか謡曲や仕舞も上手であったかと思う。若先生も典型的な温雅の紳士で、いつも優長な黒紋付姿を抱車の上に横たえていた。うちの女中などの尊敬の対象であったようである。その若先生が折々自分の我儘な願いに応じて「化学的手品」の薬品を調合してくれたりした。無色の液体を二種混合するとたちまち赤や黄に変り、次に第三の液を加えるとまた無色になると云ったようなのを幾種類か用意してもらって、近所の友達を集めては得意になって化学的デモンストラチオンをやって見せたのであった。