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どうひょう

道標

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《道標(どうひょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 頁

青空文庫

――いまこの亀田のアトリエのはてしない雑談にまじっている自分に、伸子はそれを感じるのだった。

「ああこりゃうまい!」

パステルの研究をしているというひとが、亀田の細君のコーヒーの腕前をほめた。

「これだけにのませるところは、少くともここいらにはないだろう」

「実のところ万更自信がなくもありませんのよ。かえりましたら、いずれ店を出すことになりましょうから、どうぞよろしく」

「――うまい、で思い出したが、気がすこしどうにかなると、女の手がうまそうに見えるものだろうかね」

柴垣が、もちまえのポーズをくずさず云った。

「耳が気になったという例は、美術史にある」

「ゴッホだろう? 俺の話は手なんだ、女の手なんだ」

「くった奴があるのか」

みんなが笑い出した。

「都久井俊吉、ね」

それはひろく知られている作家の名であった。

「あのひとが、すこし頭の調子をおかしくしたときのことだがね、何しろ普通の病人じゃないから、家のひとも医者も、ひととおりならない苦心なんだ。本人を不安にしたり絶望させたりしないために、すこし強度の神経衰弱ということにして、静養が第一、まあ、おなかをすかせないようにするんですな、って云ったんだな。