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とおのへ

遠野へ

水野 葉舟

線上閱讀水野 葉舟《遠野へ(とおのへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 55,903 字 · 117 頁

青空文庫

雪はしとしと降ってくる。宮守をはずれたところでそっと垂幕を上げて見ると、目に見える限りがぼっと白く、重い幕を垂れたようになっている。私は深く呼吸をして、遠野! 遠野もやはり薄黒い、板造りの尖った屋根がならんだ、陰鬱な町だろうか……と思った。東京にいては私はこの寒い国がこれほど、親しみにくいとは思ってはいなかった。

雪の中を発って町端れまでのろりのろりくると、私の方の馭者は、何かくどくど言っていたが、やけのようにピシリ、ピシリと馬を打った。それを見ると、

「由爺、どうした?」と、中から例の老人が声をかけた。

「どうしたんでもねい。おれの車に五人も乗れるか。荷物もあとのより倍ある。」と、このキッカケに調子がついたと見えて、急に馬車を止めて怒鳴り出した。

老人はしきりとなだめていたが、由爺は猛り立てて誰の言うことも聞かない。あとの方の馭者も、雪の中だから次の宿まで行けと言ったけれど、

「フン次の宿まで、……鱒沢までか。」と言って馬車を立てたまま動こうともせぬ。それで、こんども最後に乗った、毛糸の襟巻をした男が降りて、後の馬車に乗り換えた。

馬車は小山の腹を一廻りまわった。