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いこん

遺恨

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《遺恨(いこん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 頁

青空文庫

梅木先生は六十円のオツリをつかんで中華料理店をとび出した。支那ソバを二つ食ったのである。うまかったような気がする。然し、味覚の問題ではない。先生は自殺したくなっていた。インフレ時代に物を食うということが、こんなミジメなものだとは。お金をだしながら乞食の自覚を与えられたのであった。

梅木先生は裏口営業とはどんなものか知らなかった。終戦以来、料理店の門をくゞるのは、はじめてゞあった。

裏口営業などゝ云われているが、表に、只今営業中、という札が下っている。すると、裏口とはどういうことだろう? いっぺん裏口をくゞったら、どんなに爽快だろうか。せめて、只今営業中、の表口でいゝからくゞってみたいものだと考えていたのである。

この日、梅木先生は一方ならぬ決心をしていた。どうしても、食う。あの只今営業中、の札のかゝった戸口をくゞるのだ。

悲愴な覚悟というものは、たとえば味覚に端を発していながらも、結局は特攻隊と同じような、支離滅裂な亢奮と絶望に帰一するものらしい。

戸口をくゞる時から、梅木先生の覚悟はたゞ事ではなかった。逆上、それから、混乱だ。

けれども、店内は、意外や、あたりまえの店内の風景であった。