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きょうしゅうのしじん よさぶそん

郷愁の詩人 与謝蕪村

萩原 朔太郎

線上閱讀萩原 朔太郎《郷愁の詩人 与謝蕪村(きょうしゅうのしじん よさぶそん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 39,038 字 · 78 頁

青空文庫

寂寞と昼間を鮓のなれ加減

鮒鮓や彦根の城に雲かかる

寂寞と昼間を鮓のなれ加減

鮓は、それの醋が醗酵するまで、静かに冷却して、暗所に慣らさねばならないのである。寂寞たる夏の白昼。万象の死んでる沈黙の中で、暗い台所の一隅に、こうした鮓がならされているのである。その鮓は、時間の沈滞する底の方で、静かに、冷たく、永遠の瞑想に耽っているのである。この句の詩境には、宇宙の恒久と不変に関して、或る感覚的な瞳を持つところの、一のメタフィジカルな凝視がある。それは鮓の素であるところの、醋の嗅覚や味覚にも関聯しているし、またその醋が、暗所において醗酵する時の、静かな化学的状態とも関聯している。とにかく、蕪村の如き昔の詩人が、季節季節の事物に対して、こうした鋭敏な感覚を持っていたことは、今日のイマジズムの詩人以上で、全く驚嘆する外はない。

鮒鮓や彦根の城に雲かかる

夏草の茂る野道の向うに、遠く彦根の城をながめ、鮒鮓のヴィジョンを浮べたのである。鮒鮓を食ったのではなく、鮒鮓の聯想から、心の隅の侘しい旅愁を感じたのである。「鮒鮓」という言葉、その特殊なイメージが、夏の日の雲と対照して、不思議に寂しい旅愁を感じさせるところに、この句の秀れた技巧を見るべきである。